大阪公立大学 大学院医学研究科 循環器内科学

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心不全グループ-研究紹介-

スタッフ

研究の概要

准教授 泉家 康宏

慢性心不全に対する治療は、薬物療法や心室再同期療法などのデバイス治療の確立に加え、心臓リハビリテーションが導入され、予後を大きく改善させつつあります。しかしながら、高齢化社会の進行に伴い、治療の進歩を上回る速度で心不全罹患者数は増加しております。そのため、更なる心疾患患者さんの健康寿命延伸のためには、「心不全の病態解明」こそが重要であると考えています。
我々のグループでは、心不全の病態を解明し、心疾患患者さん個々の病態に合わせた、より的確な心不全の予防法、治療法を開発することを目指しています。

代表的な研究の紹介

心不全における包括的臨床評価による多目的コホート研究

心不全グループでは非虚血性心不全患者を対象とした多目的コホート研究を行っています。本コホートにエントリーしていただいた患者様には、心不全の原疾患検索のための心臓MRI検査や心臓カテーテル検査のみならず、各種画像検査による骨格筋および内臓脂肪・異所性脂肪などの体組成評価や心肺運動負荷試験(CPX)による運動耐容能の評価も施行しています。
私たちは本コホートを用いて、非虚血性心不全における骨格筋および異所性脂肪と運動パフォーマンスやフレイルとの関連、骨格筋および異所性脂肪が心筋のリモデリングや逆リモデリングなど臨床経過に及ぼす影響を検討し、研究成果をESC Heart fail.誌、Am J Cardiol.誌、Int J Cardiol.誌などに報告しています。

将来の展望と期待
骨格筋・異所性脂肪が慢性心不全の経過に及ぼす影響を明らかにすることを目標としています。また、運動耐容能規定因子となるような筋肉関連指標を見出すことが出来れば、より効率的に運動耐容能を改善させ得るリハビリテーション方法を見出すことにつながると考えています。
更に、近年ある種の薬剤には心臓周囲脂肪などの異所性脂肪を減少させる効果がある可能性が報告されています。本コホートの中から異所性脂肪を減少させる可能性のある薬を見出すことや、各種薬剤の運動耐容能へ与える影響を異所性脂肪の観点から検討することで、心不全の予後を改善させ得る新規治療薬の発見につなげたいと考えています。
研究秘話
心不全の原因は多種多様であり、原疾患の特定が困難であることも珍しくありません。コホート研究を行う上で原疾患の特定は非常に重要であり、包括的な臨床評価を行うことで可能な限り原疾患を特定することが出来るよう日々努めています。このようなリサーチマインドを内に秘めた診療姿勢は、日々の臨床にも良い影響を及ぼしていると思います。

心筋症の病態解明を目指した研究

冠動脈高度石灰化病変は未だ予後不良であり、カテーテル治療の残された課題とされています。当グループでは冠動脈石灰化と相関する血中バイオマーカーの開発を行い、病変形成機序の解明に取り組んでおります。また、石灰化病変では薬剤溶出性ステント留置後の血管修復反応が遅延すると報告されています。光干渉断層法を用いた詳細な解析を行うことでステントの種類やプラークの性状による血管修復反応の違いを検討し、PCI治療後の予後改善につなげる取り組みも行っています。

将来の展望と期待
石灰化病変の形成機序は未だ解明されていないことも多く、病変の形成機序を解明することで発症予防と予後改善に繋げたいと考えています。また、ステント留置後の詳細な血管修復反応を観察することで、より適切な治療法の確立に繋げたいと考えています。
研究秘話
冠動脈石灰化病変は未知な領域が多く、やりがいのある領域と思っています。。

骨格筋由来ホルモン-マイオカイン-を介した、心臓リハビリテーションの効果発現メカニズムの解明

慢性心不全に対する治療は、薬物療法や心室再同期療法などのデバイス治療の確立に加え、心臓リハビリテーションが導入され、予後を大きく改善させつつあります。しかしながら、心臓リハビリテーション療法の予後改善のメカニズムや、心血管機能への影響については明らかにはなっていません。近年、骨格筋などの筋肉線維から生成、発現し、放出されるサイトカインやペプチドは”マイオカイン”と呼ばれ、心臓リハビリテーション療法による心血管の保護効果への関与が示唆されています。慢性心不全の心臓リハビリテーション療法の影響を血中マイオカインおよび心血管画像診断法を組み合わせた多面的アプローチにより検討し、その予後改善のメカニズムを解明することを目指しています。

将来の展望と期待
心臓リハビリテーションの効果発現メカニズムの解明のみならず、より効果的なリハビリテーション療法ができ、慢性心不全患者の再入院抑制、入院期間短縮および医療費抑制に寄与できる可能性がある研究と考えています。またマイオカインは治療薬としての可能性も秘めています。将来的には実際の運動の有無に関わらずリハビリテーションの効果を得ることが出来るリハ薬剤の開発につながる可能性も期待されます。
研究秘話
運動療法は非常に定量化しにくいものです。監視下運動の量は評価できても、日々の生活の中での活動量まで定量化することは非常に難しく、運動療法の効果を評価する上での大きな問題点となっています。運動療法の定量評価を可能とするマイオカインの同定を目指しています。そのためには、近年発達の目覚ましいIoT技術の活用が研究の鍵になると考えています。