大阪公立大学 大学院医学研究科 循環器内科学

Contact

肺高血圧グループ-研究紹介-

スタッフ

研究の概要

准教授 泉家 康宏

肺高血圧症は未だ予後不良の難病であり、未解決の問題が多く残っている疾患群です。病態により病型分類が細分化されており、正確な病態把握と適切な治療を心掛けておりますが、実際には治療方針に苦慮する患者様も多いです。肺高血圧症グループでは、このような日常臨床において日々思い悩む臨床課題-Clinical question-に根ざした研究を行っております。特に、正確な病態の把握を可能とするマルチモダリティを用いた新規診断法の開発に力を入れております。

准教授 泉家 康宏

代表的な研究の紹介

慢性血栓塞栓性肺高血圧症における肺動脈サブトラクションCTによる肺血流の定量化と循環動態予測

肺動脈サブトラクションCT(lung subtraction iodine mapping: LSIM-CT)は肺血流シンチグラムと同等の精度で慢性肺塞栓症を診断可能な新規技術として報告されています。当院では慢性血栓塞栓性肺高血圧症と診断した患者さんにおいて、LSIM-CTで得られる重度血流低下領域の分布と右心カテーテル検査データとの相関関係を調べることで、CTデータから血行動態を予測する取り組みを行っています。

将来の展望と期待
LSIM-CT撮像により、慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症の診断のみならず血行動態指標の予測や重症患者さんの抽出に繋がると考えています。また、この技術を肺動脈性肺高血圧症などの他の疾患分類群にも応用することでLSIM-CTによる疾患鑑別技術の進歩や予後予測に繋げていきたいと考えています。本研究は科研費(若手研究)の支援を受けて遂行しています。
研究秘話
新規技術を確立するために頭を悩ませられました。チームの医師だけでなく、放射線技師さんなど多くのメディカルスタッフに助けて頂いています。

2. 急性肺塞栓症における肺動脈MRIを用いた肺動脈血栓年齢の推定

MRIにおけるT1強調Black-blood画像(T1BB)の高シグナルは冠動脈や頸動脈においてプラーク内出血や血栓の有無と相関することが知られています。本研究ではこの原理を応用して急性肺塞栓症における肺動脈内血栓の血栓年齢を推定し、抗凝固療法による治療効果の予測や、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)への移行リスクなどを検討しています。私たちはこの技術が血栓年齢の推定に有用であった症例を、2021年にEuropean Heart Journal – Cardiovascular Imaging誌に報告しています(右図)。

将来の展望と期待
急性肺塞栓症と一口に言っても、下肢静脈内で形成された血栓による塞栓症であることが多く血栓年齢は様々だと考えています。血栓年齢により抗凝固療法に対する反応性も違う可能性があると考えており、抗凝固療法後に血栓が残存するリスクの層別化につながると考えています。
研究秘話
報告がない中で始めた研究ですので、最初に肺動脈血栓の高シグナルを観察できた時は感動しました(筆頭著者、山口談)。

3. 肺疾患合併肺高血圧症における一酸化窒素吸入による肺血管拡張薬への反応性の予測

実際の肺高血圧症診療では、重度の肺疾患を合併されている患者さんが多数おられます。このような患者さんでは肺血管拡張薬の適応や薬剤調整も難しいことが多く、予後も特に不良とされています。本研究では実際に肺血管拡張薬を開始する前に一酸化窒素吸入による血行動態の変化を観察し、薬剤への反応性と予後との関係を調べています。私たちは一酸化窒素吸入による肺血管拡張薬への反応性の予測が有用であった症例を、2022年にJournal of Cardiology Cases誌に報告しています。

将来の展望と期待
肺血管拡張薬を始める前に反応性を予測することで治療の安全性向上に繋がり、反応性の良い患者さんを抽出することで疾患予後の改善につながると考えています。本研究は公益財団法人 大阪ハートクラブからの研究助成を受け遂行しています。
研究秘話
一酸化窒素への反応性がよく、その後の治療への反応性も良かった重度の間質性肺疾患患者さんを経験したことで、本研究の着想に至りました。通常であれば治療適応にならないと考えられている患者さんの中にも治療が福音となる患者さんもおられ、有意義な研究になるのではと思っています。