当グループでは、冠動脈疾患、末梢動脈疾患といった全身の動脈硬化性疾患を、各種画像モダリティを駆使して深く解析し、より良い臨床成績との関連を模索する事で患者への還元を図ると共に、新規デバイスの開発も行っています。
また近年構造的心疾患に対するインターベンションの発展が著しく、更なる臨床成績向上のために、病態解明を図るとともに臨床データの解析を行っています。
現在、主に以下の研究テーマに取り組んでおります。
致死的な心筋梗塞は、突然のプラーク破綻やびらんにより、冠動脈内に血栓が生じることで発症します。一方、冠動脈内に非閉塞性血栓が形成されると、プラークが治癒することで病変が進展すると考えられています(N Engl J Med. 2020;383:846-857)。このようなプラーク治癒にはプラークを覆うコラーゲンなどの細胞外マトリクスの合成と分解が重要な役割を果たしています。当グループでは、プラークを覆う細胞外マトリクスの分解を標的とした新規イメージング技術を開発し、血管炎症と血管リモデリングの基盤分子の解析を行なっています。
冠動脈高度石灰化病変は未だ予後不良であり、カテーテル治療の残された課題とされています。当グループでは冠動脈石灰化と相関する血中バイオマーカーの開発を行い、病変形成機序の解明に取り組んでおります。また、石灰化病変では薬剤溶出性ステント留置後の血管修復反応が遅延すると報告されています。光干渉断層法を用いた詳細な解析を行うことでステントの種類やプラークの性状による血管修復反応の違いを検討し、PCI治療後の予後改善につなげる取り組みも行っています。
高齢化社会に伴い大動脈弁狭窄症(AS: Aortic Stenosis)患者は増加しています。経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI: Transchateter Aortic Valve Implantation)は、AS患者に対する有効性が報告されており、今後適応の拡大が見込まれています。TAVIにより大動脈弁機能や心機能の改善はみられるにも関わらず、術後のActivities of Daily Living(ADL)やフレイルが改善しない症例をしばしば経験します。TAVIは生命予後の改善のみならず、ADLやフレイルの改善、いわゆる健康寿命の延伸が重要な目的であり、TAVIを予定されている重症AS患者において、身体機能やADLを包括的に評価しTAVI後の予後やフレイルの改善に影響を与える因子を解明する事は重要な課題と考えています。これまでにフレイルの評価の指標として、クリニカルフレイルスケールやSPPB、歩行速度、握力測定などが報告されていますが、それらに加えて、アンケート形式の評価方法やCTによる骨格筋料及び筋肉内脂肪含有量の測定、身体活動量計を用いた日常生活での経時的活動量の測定を行い、ADL・フレイルを包括的に評価し、主要心血管イベント(MACE)や健康寿命との関連を調査しています。
当グループではカテーテル治療を行う際に、血管内の様子を観察しています(血管内イメージング)。血管内超音波や光干渉断層像に加え、血管内視鏡も使用することがあります。血管内視鏡は他のイメージングモダリティとは異なり、「見た目でわかる」「一目瞭然」で診断が可能です。しかしながら、動脈硬化領域ではまだ十分な診療経験の蓄積が乏しく、胃カメラや大腸カメラのような診断精度には至っておりません。 これまで我々は浅大腿動脈という足の太腿を走っている血管を血管内視鏡で観察を行い、胃潰瘍のように動脈硬化がえぐれている「潰瘍性プラーク」が存在すると、そこで血栓が形成されやすくなり、その血栓が末梢の血管に飛散して詰まらせてしまうということを証明し、報告しました。膝から下の動脈は「動脈硬化で詰まるのではなく、血栓で詰まっていることが多く、この血栓は上流から飛散してきていると考えられる」(J Am Coll Cardiol. 2018;72:2152-2163.)という既報の病理学的研究の内容を支持する結果となりました。
現在、本学が研究代表機関となりSAMURAI研究という多機関共同前向き観察研究を進行中です。大腿膝窩動脈完全閉塞病変に対するワイヤー通過ルートや使用デバイスとその後の開存との関連を見る試験ですが、本試験のキーは血管内超音波(IVUS)画像のコアラボ解析です。本研究は全国の主要11機関に参加頂き、画像解析を当教室で行っています。大学病院は決してEVTの症例数が多い訳ではありませんが、大学ならではの仕事として他機関の画像解析を担う事で、その領域に関するエビデンス構築に携わっています。また本研究は統計学教室の吉田准教授が統計解析責任者として参画頂いている事、またREDCapシステムを用いてデータ入力を行っている事など、大学ならではの特徴があり、またそうする事で研究の質を高める事が出来ています。