大阪公立大学 大学院医学研究科 循環器内科学

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虚血グループ-研究紹介-

スタッフ

研究の概要

講師 山崎 貴紀

当グループでは、冠動脈疾患、末梢動脈疾患といった全身の動脈硬化性疾患を、各種画像モダリティを駆使して深く解析し、より良い臨床成績との関連を模索する事で患者への還元を図ると共に、新規デバイスの開発も行っています。
また近年構造的心疾患に対するインターベンションの発展が著しく、更なる臨床成績向上のために、病態解明を図るとともに臨床データの解析を行っています。
現在、主に以下の研究テーマに取り組んでおります。

講師 山崎 貴紀

代表的な研究の紹介

冠動脈プラーク不安定化機序の解析

致死的な心筋梗塞は、突然のプラーク破綻やびらんにより、冠動脈内に血栓が生じることで発症します。一方、冠動脈内に非閉塞性血栓が形成されると、プラークが治癒することで病変が進展すると考えられています(N Engl J Med. 2020;383:846-857)。このようなプラーク治癒にはプラークを覆うコラーゲンなどの細胞外マトリクスの合成と分解が重要な役割を果たしています。当グループでは、プラークを覆う細胞外マトリクスの分解を標的とした新規イメージング技術を開発し、血管炎症と血管リモデリングの基盤分子の解析を行なっています。

将来の展望と期待
1.新規血管内画像診断を用いたプラーク不安定化機序の解明
血管内偏光測定法は、光干渉断層法(OFDI)による微細構造の観察に加えて、プラーク組織の光学特性である複屈折を生体冠動脈で観察することができます(JACC Cardiovasc Img. 2020;13:790-801)。血管内偏光測定法を用いて、血管治癒不全とプラーク不安定化との関係や、ステント留置後の新生動脈硬化の進展において、コラーゲン構造・性状の変化が果たす役割を解明します。

2. 動脈硬化における自然免疫異常活性化の意義
加齢や生活習慣病により、細胞が障害されると自己DNA断片が遊離し、自然免疫システムの異常活性化によって血管の慢性炎症が惹起されます(Science Adv. 2016;2:e1501332)。当グループでは、冠動脈疾患を有する患者様を対象として、冠動脈CT、MRI、OCT/OFDIなどの画像所見と、冠動脈血の遊離DNA核酸断片との関係を解析することにより、プラーク不安定化における自然免疫異常活性化の意義を検討します。プラーク組織をシステム生物学的手法により解析し、冠動脈プラーク不安定化における血管炎症機序の解明を目指します。
研究秘話
当グループでは、ハーバード大学との共同研究により、新しい血管内イメージングを用いた臨床研究を行なっています。偏光感受性光干渉断層法を用いた血管内偏光測定により、プラークを構成するコラーゲン性状をリアルタイムで観察することができます。新規血管内イメージングを用いた研究や、血管炎症とリモデリングの基盤分子を解析することにより、心筋梗塞に至る不安定プラークの診断法と新規治療戦略の開発を目指します。

冠動脈石灰化病変の病態解明と予後改善への取り組み

冠動脈高度石灰化病変は未だ予後不良であり、カテーテル治療の残された課題とされています。当グループでは冠動脈石灰化と相関する血中バイオマーカーの開発を行い、病変形成機序の解明に取り組んでおります。また、石灰化病変では薬剤溶出性ステント留置後の血管修復反応が遅延すると報告されています。光干渉断層法を用いた詳細な解析を行うことでステントの種類やプラークの性状による血管修復反応の違いを検討し、PCI治療後の予後改善につなげる取り組みも行っています。

将来の展望と期待
石灰化病変の形成機序は未だ解明されていないことも多く、病変の形成機序を解明することで発症予防と予後改善に繋げたいと考えています。また、ステント留置後の詳細な血管修復反応を観察することで、より適切な治療法の確立に繋げたいと考えています。
研究秘話
冠動脈石灰化病変は未知な領域が多く、やりがいのある領域と思っています。。

TAVI患者におけるADL・フレイルの評価方法と改善因子に関する研究

高齢化社会に伴い大動脈弁狭窄症(AS: Aortic Stenosis)患者は増加しています。経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI: Transchateter Aortic Valve Implantation)は、AS患者に対する有効性が報告されており、今後適応の拡大が見込まれています。TAVIにより大動脈弁機能や心機能の改善はみられるにも関わらず、術後のActivities of Daily Living(ADL)やフレイルが改善しない症例をしばしば経験します。TAVIは生命予後の改善のみならず、ADLやフレイルの改善、いわゆる健康寿命の延伸が重要な目的であり、TAVIを予定されている重症AS患者において、身体機能やADLを包括的に評価しTAVI後の予後やフレイルの改善に影響を与える因子を解明する事は重要な課題と考えています。これまでにフレイルの評価の指標として、クリニカルフレイルスケールやSPPB、歩行速度、握力測定などが報告されていますが、それらに加えて、アンケート形式の評価方法やCTによる骨格筋料及び筋肉内脂肪含有量の測定、身体活動量計を用いた日常生活での経時的活動量の測定を行い、ADL・フレイルを包括的に評価し、主要心血管イベント(MACE)や健康寿命との関連を調査しています。

将来の展望と期待
入院中や外来受診時でのフレイルの評価だけでなく、日常生活における活動量の評価が重要視されています。退院後も身体活動量計を用いて日常生活での活動量を経時的に評価し、フレイルやADLをより詳細に分析する事で、TAVI後の日常生活指導や治療介入にも役立てたいと考えています。
研究秘話
TAVI患者におけるフレイルの評価は、リハビリテーション医師、理学療法士、看護師の協力が必要不可欠であり、ご協力いただいた皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。また、フレイルやADLは患者自身の状態はもちろんのこと、生活環境や家族構成も大きく関与しており、TAVIの成績の向上、健康寿命の改善には、医療ソーシャルワーカーも含めた多職種での介入が重要であると改めて感じました。 TAVIやMitraClipなどのいわゆる心臓構造的疾患(Structural Heart Disease: SHD)は、循環器内科医だけでなく、心臓血管外科をはじめ、麻酔科、放射線技師、理学療法士、看護師などで構成されるハートチームで治療にあたっていますが、臨床に関することはもちろんの事、研究に関してもチームで盛んに意見を交換し合い、研究成果を高めていきたいと考えています。

血管内視鏡による動脈硬化形成機序の解明

当グループではカテーテル治療を行う際に、血管内の様子を観察しています(血管内イメージング)。血管内超音波や光干渉断層像に加え、血管内視鏡も使用することがあります。血管内視鏡は他のイメージングモダリティとは異なり、「見た目でわかる」「一目瞭然」で診断が可能です。しかしながら、動脈硬化領域ではまだ十分な診療経験の蓄積が乏しく、胃カメラや大腸カメラのような診断精度には至っておりません。 これまで我々は浅大腿動脈という足の太腿を走っている血管を血管内視鏡で観察を行い、胃潰瘍のように動脈硬化がえぐれている「潰瘍性プラーク」が存在すると、そこで血栓が形成されやすくなり、その血栓が末梢の血管に飛散して詰まらせてしまうということを証明し、報告しました。膝から下の動脈は「動脈硬化で詰まるのではなく、血栓で詰まっていることが多く、この血栓は上流から飛散してきていると考えられる」(J Am Coll Cardiol. 2018;72:2152-2163.)という既報の病理学的研究の内容を支持する結果となりました。

将来の展望と期待
胃カメラや大腸カメラではまず見た目で診断を行い、病理検査や腫瘍マーカーなどを測定しますが、血管内視鏡もこれからデータを蓄積させ、他の検査データと組み合わせることで、介入すべきプラーク、問題のないプラークなど、動脈硬化性疾患に対するオーダーメイド医療が発展していくことが期待されます。
研究秘話
内視鏡の観察を始めた初期の頃は今まで見たことのない映像で、何が見えているのか、目を慣らしていくのが大変でした。正常な血管との違いがわかるようになってくると、動脈硬化がいかに恐ろしいか、普段使用していた血管内超音波や光干渉断層像で「普通」に感じていた血管が内視鏡で観察するとこんなにもボロボロなのか…とこれまでの価値観が覆されます。みなさんも一度血管内視鏡で血管の中を覗いてみてください。

末梢血管治療(EVT)の多機関前向き観察研究における、IVUSコアラボ解析

現在、本学が研究代表機関となりSAMURAI研究という多機関共同前向き観察研究を進行中です。大腿膝窩動脈完全閉塞病変に対するワイヤー通過ルートや使用デバイスとその後の開存との関連を見る試験ですが、本試験のキーは血管内超音波(IVUS)画像のコアラボ解析です。本研究は全国の主要11機関に参加頂き、画像解析を当教室で行っています。大学病院は決してEVTの症例数が多い訳ではありませんが、大学ならではの仕事として他機関の画像解析を担う事で、その領域に関するエビデンス構築に携わっています。また本研究は統計学教室の吉田准教授が統計解析責任者として参画頂いている事、またREDCapシステムを用いてデータ入力を行っている事など、大学ならではの特徴があり、またそうする事で研究の質を高める事が出来ています。

将来の展望と期待
大腿膝窩動脈病変のワイヤー通過ルートやプラーク性状やその後の開存率を解析する事で、実際にガイドワイヤーを中心性に通過した方が良い患者像や、また薬剤溶出性ステントや薬剤塗布バルーンなどそれぞれのデバイスに適した病変背景を探る事が出来ると考えています。
研究秘話
多機関共同研究を企画し実行する事は苦労も多いですが、単施設の研究だけでは得られない経験値を得る事が出来ます。また膨大な症例数の解析を担う事で、画像所見の裏に透けて見える世界を妄想しながら解析する事は、コアラボ解析を担う者としての楽しみです。一般市中病院だと画像解析にここまで細かく没頭する事は体制的にも難しいと思うので、大学ならではの醍醐味と考えています。コアラボ解析に興味のある方はぜひご連絡ください!