肺高血圧症は未だ予後不良の難病であり、未解決の問題が多く残っている疾患群です。病態により病型分類が細分化されており、正確な病態把握と適切な治療を心掛けておりますが、実際には治療方針に苦慮する患者様も多いです。肺高血圧症グループでは、このような日常臨床において日々思い悩む臨床課題-Clinical question-に根ざした研究を行っております。特に、正確な病態の把握を可能とするマルチモダリティを用いた新規診断法の開発に力を入れております。
肺動脈サブトラクションCT(lung subtraction iodine mapping: LSIM-CT)は肺血流シンチグラムと同等の精度で慢性肺塞栓症を診断可能な新規技術として報告されています。当院では慢性血栓塞栓性肺高血圧症と診断した患者さんにおいて、LSIM-CTで得られる重度血流低下領域の分布と右心カテーテル検査データとの相関関係を調べることで、CTデータから血行動態を予測する取り組みを行っています。
MRIにおけるT1強調Black-blood画像(T1BB)の高シグナルは冠動脈や頸動脈においてプラーク内出血や血栓の有無と相関することが知られています。本研究ではこの原理を応用して急性肺塞栓症における肺動脈内血栓の血栓年齢を推定し、抗凝固療法による治療効果の予測や、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)への移行リスクなどを検討しています。私たちはこの技術が血栓年齢の推定に有用であった症例を、2021年にEuropean Heart Journal – Cardiovascular Imaging誌に報告しています(右図)。
実際の肺高血圧症診療では、重度の肺疾患を合併されている患者さんが多数おられます。このような患者さんでは肺血管拡張薬の適応や薬剤調整も難しいことが多く、予後も特に不良とされています。本研究では実際に肺血管拡張薬を開始する前に一酸化窒素吸入による血行動態の変化を観察し、薬剤への反応性と予後との関係を調べています。私たちは一酸化窒素吸入による肺血管拡張薬への反応性の予測が有用であった症例を、2022年にJournal of Cardiology Cases誌に報告しています。